関東大震災復興100年に際し、『~2025年4号特例見直し~これからの住宅を考えよう』と題して、特別セミナーを開催いたしました。全国から、200名近い多くの方々にご来場いただき、大変、熱心に聴講いただきました。北は札幌、南は熊本と、本当に全国から、しかも、日帰りでのご参加もありました。ホームズ君ユーザー様の熱心なご姿勢、たゆまぬ向学心に触れ、弊社スタッフも身が引き締まる思いで始まりました。ご参加された皆様も、少なからず、同様のお気持ちを持たれたのではないかと思います。
4名の講師の方々による素晴らしいご講演により、4時間余りの長丁場のセミナーも盛況のうちに終えることができました。会場では、メーカー様にもご出展いただき、質疑が行われる場面がありました。閉会後は懇親会を実施し、多くの方々に歓談いただきました。参加者様アンケートでは「非常に内容が濃かった」「自分も取り組んでみたい」といった感想をいただいた一方で、「もう少し深く聞きたかった」「時間が足りない、盛り込みすぎ」などの声もいただきました。本セミナーは対面のみでの開催だったため、都合のつかなかった方もいらっしゃったことと思います。一部抜粋という形にはなりますが、このセミナーレポートを通じて、当日の様子をご紹介できればと思います。
弊社は今後も、安心安全な住まいづくりのため、皆様のお役にたてるようなセミナーを企画・開催していきます。ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
以下、セミナーの内容を抜粋でご紹介します。
【開会挨拶】柳澤泰男(株式会社インテグラル会長)
(挨拶抜粋)
「歴史からみて、関東、南海トラフ地震は、いつ起こっても不思議ではない。そうした認識の中、熊本地震が発生し、基準適合した住宅でも少なからず被害が発生した。一方で、耐震等級3では被害が少なかった。これらの被害調査から、専門家からは、現在の必要壁量の不足や水平構面の検定の必要性、構造計算をすべきだといった意見が出てきたが、2025年の改定では、壁量係数の見直し程度にとどまるようで、地震の教訓を活かしきれていないと考えている。
そこで、ホームズ君ユーザーの皆様には、ぜひ、耐震性能の確保のために構造計算をすすめていただきたい。省エネ性能にも等級5・6・7と出てきた。国は最低基準を示す立場なので、皆様のご判断によって、耐震性も省エネ性能も上位性能を目指していくべきではないか。
住宅は、施主にとっては高い買い物。 技術者としては、簡易計算で最低基準を示すのではなく、詳細計算で上位性能の確保を説明すべきではないか。インテグラルは、そのような皆様を、全力でサポートさせていただきたい」
【開会挨拶】藤間明美(株式会社インテグラル代表取締役社長)
(挨拶抜粋)
「インテグラルでは、今後のホームズ君開発 として、2025改正にかかる仕様規定に関する自動機能の充実、ネットワークキー対応、BIM連携強化、などを予定している。 また、2025年法改正に向けて“すまいのアクション2025” を発足させ、ユーザー様とお施主様向けの情報提供を進めていく。これは、事業者と施主が共に、いい家づくりのための知識を身につけようというアクションだ。
今回のセミナーの趣旨は、2025年の法改正を前に、今後の4号の新築・既存改修、空き家問題、BIMなど、住宅をとりまくテーマについて、実務者が注目するポイントや具体的な取り組みについてご紹介すること。本日のセミナーが、皆様の設計やビジネスのヒントになれば幸いだ」
【第一部 構造設計実務者からの提言】村上淳史氏(村上木構造デザイン室)
『4号特例見直しに向けた、構造設計のこれから』
村上様からは、4号特例の見直し後の構造設計のあり方について、お話しいただきました。「4号特例とは、『建築士が設計した4号建築物については建築確認申請での提出図書の一部が省略される』というもの。いわゆる図書省略の制度であって、構造安全性の検討の省略ではない。新築の木造軸組住宅における実態調査によると、近年では、プレカットの割合は9割を超えている。プレカット工場に対するアンケートでは、プレカットを発注にあたって発注者から伏図が提供される割合は25%であり、そのうちのほとんどは多少なりともプレカット工場で修正しているという。これは、設計者が伏図の検討をしていなくても、住宅生産が可能となっているということで、架構設計、伏図の作成はプレカット工場が担っているということでもある。」と現状を説明されました。
さらに、「プレカット加工図(伏図)は、プレカット工場側は『設計図書(伏図)』ではなく『施工図』という認識である。プレカット加工図(伏図)は設計図書としての『伏図』としての要件を満たしていないことが多いことに注意されたい。プレカット工場が伏図を作成していたとしても、構造の責任はあくまでも建築士が負わなければならない。とはいえ、プレカット工場では、壁量計算やN値計算、梁せい算定のための許容応応力度計算を行っていることが多い。プレカット工場では構造設計サポートを行っている場合も多いので、設計者の状況よって、建築士事務所登録をしているプレカット工場に外注することも選択肢ではないか」と具体的な対応を提起されました。
「2025年法改正で、確認申請時の提出図書として、伏図が必要となるのか?加工図ではなく伏図の提出が必要となるのか?ということに、みなさんの関心が集中している。自分の知る限り、国土交通省住宅局による改正建築物省エネ法・建築基準法の円滑施行に関する連絡会議資料(2023年8月開催)によれば、確認申請時に伏図など一部の図書の提出を省略してもよいということになるようだ(ただし仕様表というものが必要)。木造住宅の構造計算の捉え方が変わるのかなと期待していたところだったが残念だ。繰り返しになるが、プレカット加工図は現状では設計図書としての伏図とは言えない。 建築士は、架構設計を行い、記名のもと責任をもって伏図を作成すべきだ」と結ばれました。
【第二部 基調講演】山辺豊彦先生(山辺構造設計事務所)
『ヤマベの耐震改修事例紹介~4号特例見直しに向けた耐震改修へのアドバイス~』
山辺先生には、地震の被害想定、地震被害の特徴(年代別の構造的特徴・壁量不足、擁壁や地盤による被害)、木造の特徴として構造要素、構造計画の注意点(不整形、吹抜け、セットバック、耐力壁、主構面と補助構面)、現地調査のやり方から耐震性の診断方法、補強計画の具体例、そして、古民家の改修事例まで、盛り沢山にお話しいただきました。
(ご著書『ヤマベの耐震改修』からの内容でしたので、このブログでは詳細を割愛させていただきますが、山辺先生の力強いご講演に多くの方が引き込まれていました。)
【第三部 実務者講演➀】白坂隆之介氏(リージョン・スタディーズ)
『ヤドカリプロジェクト ~空き家を住み継ぐライフスタイルのススメ~』
白坂様が取り組む「ヤドカリプロジェクト」は、建築知識ビルダーズの第6回 日本エコハウス大賞で最優秀賞を受賞された、空き家活用のスキームです。
具体的には、「既存住宅で劣化していてもきちんと補修されれば新築に近い評価ができるとする、国交省が進めている新しい評価手法 がある。こうした制度を活用し、解体と新築にかかるコストより低コスト(標準建築費から 2割程度ダウン)で同等スペックの住宅を実現し、さらに、建築確認や性能評価等を取得することで査定価格をUPさせ売却、そして、売却益を得る」ものと、説明されました。
また、ヤドカリプロジェクトは「 空き家であってもしっかりと再生し、価値を新築同様にまで引き上げる、それが売却できたら、次の空き家へ住み換えるというスキームで、空き家があればどこでもできる」 と述べられました。
さらに、白坂様 は「前世代がコストをかけて建てた家は資産価値を失い、さらにコストをかけて解体される。負の遺産になっている」「築後20年で評価額0円という慣習が、全国では約540兆円もの資産価値の喪失に繋がっており国家的課題だ」と指摘。地元で自ら歩いて家屋を調べ、空き家 をターゲットに交渉し展開していることをお話しいただきました。金沢や京都でも空き家を改修して価値を上げたいという建主のために協力しているということです。
最後に、インテグラルから白坂様へのリクエストで、Archicad(GRAPHISOFT社)の活用法もご紹介いただきました。既存改修では「リノベーションステータス」 を利用して、解体部分、新設部分の数量を瞬時に拾う方法をお話しいただきました。
白坂様は シーラカンスK&H勤務時代には多くの作品 に携わった後、独立されておられます。新建築・住宅建築2023年9月号には、巻頭で「修善寺の家」 が掲載されております。
【第三部 実務者講演➁】坂崎有祐氏(有建築設計舎)
『BIMで繋がる~木造住宅の提案から性能計算まで~』
坂崎様からは、様々なCAD等ソフトに関するご経験を経てRevit(BIM)を活用されている現在の設計について、お話しいただきました。「把握する」、「伝える」、「確認する」という観点から、日照環境の分析とそれを伝える機能、また、データ共有、作図の効率化、整合性の確認、現況の見える化など、さまざまな場面でBIMの表現力を最大限活用されているとのことです。実は、一度、BIMに挫折したが、再チャレンジして今にいたっているとお話しされ、会場の多くの方が勇気づけられたのではないかと思います。
また、性能計算では、BIMからホームズ君にデータ連携することで、構造計算や省エネ計算、室温・光熱費シミュレーションを活用いただいているとのことでした。
坂崎様は、日本建築士会のBIMサポート建築士としてBIMの普及に尽力される中、地元教育機関でBIMの講師を務めたり、設計事務所のBIM導入をサポートしたりするなど、若手育成にもかかわっておられます。若い世代のBIM習得は非常に早く、若手に機会を提供していくことで、近い将来、住宅建築でのBIM活用も当たり前になっていくのではないか、というまとめが非常に印象的でした。
懇親会は講師の先生方にもご参加いただき多くの交流を行っていただきました。山辺先生は、「若い方たちが、どんどん出てきて、頑張ってくれている。非常に嬉しい」とおっしゃっておられました。ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。